JTは株主還元方針として「1株当たり配当⾦の安定的/継続的な成⻑」を掲げ、2005年3月期から毎期「増配」を続けていました。
しかし、2020年12月期の配当が「横ばい」となれば、2005年から続いていた連続増配は“16期”でストップすることになります。
JTの魅力は、なんといっても配当利回り7.7%を誇る、超高配当という点です。
さらに、ROE13.2%、ROA6.3%と収益性も高い企業です。
それにもかかわらず株価は2016年から下落し続けているいわくつきの銘柄です。
今回は、そんな高収益率を誇り、高配当銘柄で有名なJTについてご紹介していきます。
- JTの株価状況
- JTの財務状況
- JTの株価推移
- JTの事業内容
- JTの当期利益の推移
- JTの配当金の推移
- JTの配当性向は遂に89.6%に!
- JTの株主優待
- JTの株価が下落する理由
- JTの今後について
- まとめ
JTの株価状況
株価(6/23 15:00)
2,170.5
年初来高値
2,437.5(2020/1/15)
年初来安値
1,862.0(2020/3/23)
最高値(過去10年)
4,850.0(2016/2/1)
最安値(過去10年)
1,402.5(2011/3/15)
PER:10.11倍
PBR:1.32倍
配当金(会社予想):154円
配当利回り:7.70%
配当性向(会社予想):89.6%
配当権利確定日:6月末、12月末
自己資本比率:47.9%
ROE:13.2%
ROA:6.3%
EPS:171.9円
JTの財務状況
自己資本比率:47.9%
自己資本比率とは、返済不要の自己資本が全体の資本調達の何%あるかを示す数値です。
自己資本とは、株主からの出資金と事業活動から得た利益の蓄積を表しています。
自己資本比率は、自己資本÷総資本(自己資本+他人資本)で算出します。
自己資本比率が小さいほど、他人資本の影響を受けやすい不安定な会社経営を行っていることになり、倒産するリスクが高まります。
一方で自己資本比率が高いほど経営は安定し、倒産しにくい会社となります。
自己資本比率は会社経営の安定性を表す数値であり、高いほどよいのです。
では自己資本比率がどのくらいなら倒産しない会社といえるでしょうか。
一般に自己資本比率が70%以上なら理想企業ならまずつぶれません。
40%以上なら倒産しにくい企業といえます。
JTの自己資本比率は、47.9%であり、健全経営をしており倒産のリスクは低めです。
ROE:13.2%
ROEは、10~20%程度であれば優良企業であると判断されます。
自己資本利益率(ROE:Return on Equity)とは、自己資本(純資産)に対してどれだけの利益が生み出されたのかを示す、財務分析の指標です。
自己資本とは、株主からの出資金と事業活動から得た利益の蓄積を表しています。
ROE(自己資本利益率)は、企業が自己資本をいかに効率的に運用して利益を生み出したかを表す指標です。
株主の立場から見ると、自己資本利益率が高い会社は「自分が投資したお金を使って効率よく稼いでいる会社」であると見ることができます。
JTは、株主から集めたお金と事業活動から得たお金をどれだけ有効活用しているか示すROEが13.6%となっています。
ROEが10%以上なので、自己資本利益率は高めです。
ROA:6.3%
ROAが5%が超えていると優良企業であると判断されます。
ROA(総資産利益率:Return On Assets)とは、総資産に対してどれだけの利益が生み出されたのかを示す、財務分析の収益性の指標です。
純資産(自己資本)、負債(他人資本)を含めた、すべての資本をいかに効率的に運用できているかを表す情報とも言えます。
一般的に、ROAが5%が超えていると優良企業であると判断されます。
ただし、業種によって基準が変わってくるため、ROAを分析する際は同業種の水準と比較することが大切です。
JTのROAが6.3%であり、総資産利益率も高水準であることから、収益性が高い企業だと言えます。
EPS:171.9円
EPS:Earnings Per Share(1株当たり利益)とは、財務分析で企業の成長性を分析するの指標の一つであり、1株に対して当期純利益がいくらあるのかを表す指標です。
「1株利益」「1株あたり当期純利益」と呼ばれることもあります。
EPSとは、成長性を見る指標です。EPSの推移を見るようにしましょう。
順調にEPSが増えていれば、成長性のある企業であると言えます。
EPSは、会社の規模にかかわらず1株あたりの当期利益の大きさを表しているため、値が大きいほど良いとされます。
順調にEPSが増えている企業は、安定的に収益をあげ、しかも成長中の企業なので、投資先として検討しましょう。
以下はJTのEPSの推移を表したグラフです。
2015年:270.54円
2016年:235.47円
2017年:219.10円
2018年:215.31円
2019年:195.97円
2020年:171.9円
EPSは、下落傾向にあり、毎年減少している状態です。
PER:10.11倍
株価収益率(PER:Price Earnings Ratio)とは、財務分析で企業の成長性を分析するときに利用する指標の一つであり、株価が1株ごとの当期純利益の何倍まで買われているかを表すものです。
PER(倍) = 株価 ÷ 1株当たり利益(EPS)
PERが低いほど会社の利益に対して株価が割安であり、高いほど株価は割高だと判断できます。
PERは会社の利益を基準に判断し、PBRは会社の資産を基準に判断されます。
PER15倍以下なら割安と言われていますので、現在のJTのPERは10.11倍で割安状態です。
PBR:1.32倍
PBR:Price Book-Value Ratio(株価純資産倍率)とは、財務分析で企業の成長性を分析するの指標の一つであり、会社の純資産に対して株価が適当な水準であるのかを表す指標です。
PBR(株価純資産倍率)は、1株あたりの純資産に対して、何倍の株価で株が買われているかを表しています。PBRを見れば、会社の資産に対して株価が高いか安いかを判断できます。
PBRの目安は1倍以下です。
一般的な目安として、PBR(株価純資産倍率)が1倍以上なら割高で、1倍を割るようであれば割安であると考えられています。
PBRが1倍ということは、株価とBPS(1株あたり純資産)が等しいということであり、その投資段階で会社が解散した場合、株主には投資額がそのまま戻ってくるということを表しています。
PBRは、1.32倍となっています。
株価指標の読み方については、以下の記事で解説していますので、是非ご覧ください。
JTの株価推移
10年チャート
出所)JT【2914】:株式/株価 - Yahoo!ファイナンス
1年チャート
出所)JT【2914】:株式/株価 - Yahoo!ファイナンス
新型コロナウィルスの影響で株価は、一時1,000円下げ、2,000円台を割りました。
この値は、2013年以来の安値です。
現在、2,200円付近で推移してます。
JTの株価が下落し続けている理由については、後述します。
JTの事業内容
たばこ事業
JTグループは120以上の国と地域でたばこ製品を販売しています。不確実性の高い事業環境下においても、ブランドを最大の財産として、将来の成長に向けた積極的な事業投資を実行しつつ、着実な利益成長を実現しています。また、近年では、リスク低減製品(※1)(RRP(※2))をはじめとするイノベーションにも注力しています。
- ※1
リスク低減製品: 喫煙に伴う健康リスクを低減させる可能性のある製品
- ※2
RRP: Reduced-Risk Products
医薬事業
JTは1987年より医薬事業に進出しました。自社にとどまらず、ライセンスパートナーをはじめとする国内外のネットワークやグループ会社との連携を活用した研究開発を推進するとともに、スムーズな製造・販売体制を構築しています。画期的なオリジナル新薬を創出し、一日も早く患者様にお届けすることを目指しています。
加工食品事業
加工食品事業では、「一番大切な人に食べてもらいたい」という想いのもと、「お客様に安全でかつ、おいしく、安心してお召し上がりいただける」商品づくりを進めています。今後も暮らしの源である「食」の世界を通じて、お客様から支持され続ける存在を目指していきます。
JTの売上に占める割合は、国内よりも海外の方が上回っています。
JTの2018年の売上高(たばこ税及びその他の代理取引取扱高を除く)は2兆2160億円で、その構成比は、国内たばこ28.0%、海外たばこ59.2%、医療事業5.1%、食料事業7.3%となっています。
JTの当期利益の推移
2016年に最高益である、当期純利益4,856億円を突破しましたが、その後は減少傾向となり、2020年も減益見込みとなっています。
2012年:3,208億円
2013年:3,436億円
2014年:4,279億円
2015年:3,629億円
2016年:4,856億円
2017年:3,924億円
2018年:3,857億円
2019年:3,482億円
2020年(予想):3,050億円
2016年から下落基調となっています。
2020年は、新型コロナウィルスの影響で大幅な減益を見込んでいます。
JTの配当金の推移
JTは、これまで減配することなく毎年のように増配を続けてきました。
しかし、今年は増配を見送り現状維持となっています。
2012年:68円
2013年:96円
2014年:100円
2015年:118円
2016年:130円
2017年:140円
2018年:150円
2019年:154円
2020年:154円(予想)
JTは株主還元方針として「1株当たり配当⾦の安定的/継続的な成⻑」を掲げ、2005年3月期から毎期「増配」を続けていました。
しかし、2020年12月期の配当が「横ばい」となれば、2005年から続いていた連続増配は“16期”でストップすることになります。
今年の配当金は、昨年同様の一株あたり154円の予想です。
ただし、2020年は減益を見込んでいます。
新型コロナの影響によってはこのままの配当金を維持できるか分かりません。
JTの配当権利確定日は「6月末と12月末」です。
つまり、口座に配当金が入金されるのは、権利確定日から6ヶ月後の「12月末と6月末」となります。
JTの配当性向は遂に89.6%に!
配当性向は、1株当たりの利益のうちどれだけの割合を配当金に当てたかを示す指標です。
配当性向は、以下の数式で求められます。
当期純利益÷配当金総額
EPS(1株当たり純利益)÷1株当たり配当金
JALは、当期純利益の89.6%を配当金として株主に分配する予定ということです。
2011年:22.84%
2012年:23.74%
2013年:33.25%
2014年:35.67%
2015年:50.08%
2016年:54.36%
2017年:62.07%
2018年:67.33%
2019年:77.79%
2020年:89.6%
ここ数年の配当性向は、上昇を続けてきました。
2020年は配当性向が89.6%を予定していますが、コロナウィルスの影響でさらに高い割合になる可能性があります。
配当性向89%は、望ましくない値と言えます。
配当性向とは、企業が1年で稼いだお金のうちどれだけの割合を配当金に当てているか示した値です。
JTのように、企業が稼いだお金の大部分を株主に還元している場合、会社を成長させるための原動力となる、研究開発費に資金を十分回すことができなくなる恐れがあります。
JTの株主優待
JTは、高配当にプラスして株主優待特典もあります。
12月31日基準日の株主様の中から、当社株式100株(1単元)以上を、 1年以上継続保有されている株主様に対し、12月31日現在の株式保有数に応じ、以下相当額の当社グループ会社等の商品を贈呈いたします。
100株以上 200株未満保有の株主様 : 2,500円相当
200株以上 1,000株未満保有の株主様 : 4,500円相当
1,000株以上 2,000株未満保有の株主様 : 7,000円相当
2,000株以上保有の株主様 : 13,500円相当
また、優待商品に代えて、社会貢献活動団体への寄付をお選びいただける選択肢をご用意しております。
なお、これまで希望された株主様にお届けしておりましたJTカレンダーにつきましては、本年より配布を取りやめさせていただくこととなりました。
何卒ご理解くださいますようお願い申し上げます。3月上旬に株主様あて発送の「株主様ご優待申込書」にもれなく必要事項をご記入のうえ、3月26日(木)必着でご投函願います。
株主優待商品は、4月中旬から5月下旬にかけて順次お届けする予定です。
期限までに「株主様ご優待申込書(ハガキ)」が到着しなかった場合、ご記入に不備がある場合、またはお申し込みがなかった場合は、5月下旬以降に当社指定のコースの商品をお届けする予定ですので、あらかじめご了承ください。株主優待の詳細につきましては、以下の「株主優待のご案内」をご覧ください。
株主優待の詳細:https://www.jti.co.jp/investors/stock/privilege/pdf/catalogue20200228.pdf
JTの株価が下落する理由
国内の喫煙者の減少
受動喫煙を防止するための法律が強化され、喫煙者の減少が考えられます。
2018年7月に健康増進法の一部が改正され、2019年7月には学校・病院・児童福祉施設等・行政機関の庁舎等」では敷地内が禁煙となりました。
2020年4月1日からは全面施行となり、学校・病院・児童福祉施設等・行政機関の庁舎等以外の多数の人が利用する様々な施設が原則屋内禁煙となりました。
喫煙が可能なのは、喫煙を主目的とする店舗(バー・スナック)や公衆喫煙所、屋内に設けた喫煙スペース(喫煙室)に限られます。
なお、喫煙室には標識の掲示が義務付けられ、20歳未満は立ち入りが禁止されるようになります。
東京都は、これを受け2020年4月1日に国の規制をさらに強化した「東京都受動喫煙防止条例」を施行しました。
小規模の外食店で実質的にほとんど喫煙ができなくなる可能性もあります。
こうした一連の規制強化を受けて、国内の喫煙人口はさらに減少が続く見込みです。
ただし、実際の喫煙者の減少という悪材料以上に、株価が下落している可能性もあります。
国内で喫煙者減少が傾向にありますが、JTは値上げによって高収益を維持してきました。
ちなみに、昨年10月の消費税引き上げ(8%→10%)時にも、値上げを実施しています。
海外タバコ会社を買収し、海外収益を拡大してきました。タバコ人口が増えている新興国が収益拡大に貢献しています。
JTの売上に占める割合は、国内よりも海外の方が上回っています。
次世代タバコでライバル企業に出遅れ
米国や日本などで、紙巻きタバコに代わって次世代タバコ(加熱式タバコや電子タバコ)を吸う人が増えています。
次世代タバコ市場において、JTの「プルーム・テック」が、ライバル企業である米フィリップモリスの「アイコス」よりもシェアを落としています。
日本では、米フィリップモリスの「アイコス」の方が人気で、プルーム・テックはシェアが低下しています。
次世代タバコのシェア低下が、JTの将来の不安材料となり、株価低迷の要因となっているかもしれません。
ESG投資で不利になる可能性
近年、日本及び海外の年金基金などといった巨大ファンドに、ESG投資、SDGs投資を導入する動きが広がっています。
ESG投資やSDGs投資とは、環境・社会・企業統治、社会の持続的成長といったものを評価尺度にしたうえで、それに適合する銘柄をファンドに優先して組み入れ、運用する考え方です。
JTは、こうしたトレンドと対立する会社とみなされている一面があります。
つまり、莫大なお金を動かす巨大ファンドに買ってもらえない可能性があるのです。
JTは、健康に害のあるタバコを販売しているという理由で、ESG投資では除外銘柄となる可能性があるからです。
禁煙者の中には投資を避ける人も
また、個人投資家でもタバコを吸わない人には「JTに投資したくない」と考える人もいることでしょう。
こうしたことから買い手が減っている可能性があります。
過度な高配当が逆効果!?
JTのように株価が下がっているにもかかわらず、配当利回りが上がる銘柄はリスクが伴います。
JTの高い配当利回りは、利益の成長に基づく増配によってもたらされたものではなく、株価の下落による単純な配当性向の増加によってもたらされています。
このような事情でもたらされる配当利回りの増加は、企業の利益成長を伴わず、何もしなければ利益が減少してしまう可能性があります。
企業が儲けた多くのお金を、企業の成長のための原資である研究開発に使わず、配当に費やしてしまうからです。
そうすると、今の株価で配当利回りが7%であっても、株価はそれ以下に低下するリスクがあります。
たとえ今の配当利回りが一見高くても、価格変動のリスクや配当が継続的に支払われないリスクが拭えないことから、買いが入らない状態だと言えます。
JTの今後について
次世代タバコ市場において、米フィリップモリスの「アイコス」の方が人気で、プルーム・テックはシェアが低下しています。
しかし、JTは、「プルーム・テック・プラス」「プルーム・エス」の2製品を新たに出し、巻き返しをはかっています。
次世代タバコの国内シェアが下げ止まれば、株価の下げも緩和される可能性があります。
さらに、JTはESG投資・SGDs投資に向けて、医療事業において力を入れているとみられます。
医療事業において、2015年度から2018年度の3年間で営業利益は、約290億円も増加させました。
2018年度の医療事業における営業利益は、約260億円であり、JT全体の営業利益5,650億円のうち4.65%を占める水準です。
現状のところ、JT株が下落基調から脱出できず、配当利回りが上がっている背景には、たばこ事業による利益率が高く、ESG投資の観点から不利となっている側面があります。
医療事業をはじめとした新たなビジネスを創出し、軸足を移していくことで、機関投資家による買いが入ってきます。
すると、株価の上昇をもたらす可能性もあるわけです。
まとめ
JTの株価は、2016年から下落し続けており、未だ下げ止まらない状況です。
純利益も2016年から下落しています。
2020年も減少を見込んでおり、株価の下落が続くことが予想されます。
今後の世界情勢によってはさらなる下落が見込まれます。
現在は、減配しない予定ですが、このまま減益が続くと今の配当金を維持するのが難しくなってくるでしょう。
配当利回りは、7.7%超と高配当であり、価格も割安です。
さらに株主優待券もあります。
株主還元を積極化に行っている点は魅力的ですが、マイナス面も存在します。
配当性向が高いことから、企業が儲けた多くのお金を、企業の成長のための原資である研究開発に回しきれていない可能性があります。
企業の利益成長を伴わず、何もしなければ利益が減少してしまう可能性があるのです。
そうすると、今の株価で配当利回りが7%であっても、株価はそれ以下に低下するリスクがあります。
また、当面は減益が見込まれるため、今すぐ買いとは言えない状況です。
高配当、高収益、割安圏の銘柄ですが、積極的には買えない銘柄です。