
米労働省が16日に公表した10〜11月分の雇用統計は、米国の雇用市場が緩やかな減速局面に入りつつあることを改めて示す内容となりました。
政府閉鎖の影響で発表が大幅に遅れたこともあり、データの解釈には注意が必要ですが、金融市場は早くも次の金融政策を見据え始めています。
- 就業者数は市場予想を上回るも、基調は鈍化
- 政府部門の急減が統計をゆがめた可能性
- 失業率は想定以上に上昇、FRBも警戒
- 賃金の伸びは鈍化、インフレ圧力後退の兆し
- レイオフ増加が示す「奇妙な均衡」の崩れ
- 投資家の視線は再び「利下げ」に
- 株価の反応
- 当面は値動きの激しいレンジ相場が続く
就業者数は市場予想を上回るも、基調は鈍化
11月の非農業部門の就業者数は前月比で6万4000人増となり、市場予想(4万〜5万人程度)を上回りました。
一見すると堅調に映りますが、10月は10万5000人の大幅減少となっており、単月の反発で楽観視できる状況ではありません。
過去分の修正を含めてみると、9月の就業者数は速報値から下方修正され、6月や8月もマイナスに転じていました。2024年に月平均17万人近く増えていた雇用の勢いは、明らかに鈍っています。
政府部門の急減が統計をゆがめた可能性
10月の雇用悪化の背景には、トランプ米政権下で実施された早期退職プログラムの影響があります。
連邦政府職員が大量に就業者から外れたことで、政府部門の雇用は15万人超の減少となりました。
一方、10〜11月は医療分野が雇用増をけん引しましたが、製造業は引き続き微減傾向にあります。内需を支える分野に偏った雇用増である点は、景気の広がりという観点では不安材料です。
失業率は想定以上に上昇、FRBも警戒
11月の失業率は4.6%と、市場予想(4.4〜4.5%)を上回りました。
7月までの1年間は4.0〜4.2%で安定していたことを踏まえると、労働市場の転換点が近づいている可能性があります。
加えて、10月から43日間に及んだ過去最長の政府閉鎖により、家庭向け調査の回収ができなかった点も無視できません。
FRBのパウエル議長も「家計調査のデータはゆがんでいる可能性がある」と指摘しており、今後の統計で修正が入る余地があります。
賃金の伸びは鈍化、インフレ圧力後退の兆し
平均時給の上昇率は前年同月比3.5%と、市場予想を下回りました。賃金インフレの沈静化はFRBにとって朗報ですが、同時に労働需給の緩みを映すシグナルとも言えます。
移民制限や強制送還政策により労働供給が抑えられていること、コロナ禍後の人手不足を背景に企業がレイオフを控えてきたことが、これまで失業率の急上昇を防いできました。
しかし、その「耐久力」にも限界が見え始めています。
レイオフ増加が示す「奇妙な均衡」の崩れ
FRBのベージュブックによると、多くの企業はレイオフに踏み切る前段階として、新規採用の凍結や労働時間の削減を進めています。
物流施設の労働時間が減らされ、副業に出るケースが報告されるなど、表面化しにくい雇用調整が進行しています。
一方で、足元ではAI導入などを理由に大企業が大規模な人員削減を打ち出す例も増えています。
8月以降、全米のレイオフ件数は明確な増加傾向にあり、「求人と求職者が同時に抑制される奇妙なバランス」が崩れるかどうかが最大の焦点です。
投資家の視線は再び「利下げ」に
金利先物市場では、FRBが2026年1月のFOMCで利下げに踏み切る確率を2割強と織り込んでいます。
今回の発表を受けて、米国株の先物市場はほぼ横ばいの反応であることから、すでに織り込み済みの動きが見て取れます。
このため、大きな値動きはないように思われます。
直近のFOMCではインフレ警戒を理由に利下げへ反対票を投じた地区連銀総裁もいましたが、失業率の上昇が加速すれば、FRBはスタンス転換を迫られる可能性があります。
雇用の失速は、米経済の中核である個人消費に直結します。
今回の雇用統計は、「景気は底堅い」とする見方に揺さぶりをかける内容であり、株式・債券市場ともに今後の雇用指標への感応度は一段と高まりそうです。
株価の反応
16日の米株式市場では、ダウ工業株30種平均が3日続落しました。
指数は前日比302ドル安の4万8114ドルで取引を終え、前週に最高値圏を付けた後の伸び悩みが鮮明となっています。
公表が遅れていた11月の米雇用統計や10月の小売売上高が発表されましたが、内容は強弱が入り交じり、先行きの見通しを明確にする材料にはなりませんでした。
市場では引き続き人工知能(AI)投資の過熱感に対する警戒が根強く、経済指標の評価も定まりにくい状況です。
投資家の間には、米経済とAI関連銘柄の方向性がよりはっきりするまで様子見したいとの雰囲気が広がっています。
この日は、前日まで売りが先行していたオラクルやパランティア・テクノロジーズといったAI関連株の一角に見直し買いが入りました。
ただ、多くの機関投資家が運用指標とするS&P500種株価指数も3日続落しており、相場全体の地合いは弱含んだままです。
AI投資を巡る不透明感を象徴するのが、AI向けクラウド新興のコアウィーブの動きです。
株価は一時6%あまり下落し、10月末と比べると4割超の下落となりました。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、AIバブルへの懸念や著名投資家からの批判、さらにオープンAI向けにリース予定のデータセンター施設完成の遅れなどが、投資家心理を冷やしていると報じています。
半導体関連では、前週の決算発表を受けて急落していたブロードコムが小幅に反発しました。16日にはJPモルガンが2026年の半導体市況について、クラウドやデータセンター、カスタム半導体分野のファンダメンタルズは「建設的」との見方を示し、同社をトップピックの一つに挙げました。ただし株価の上値は重く、上昇率は0.4%にとどまっています。
一方、AI銘柄の失速を背景に、利下げが続く環境下で米経済の底堅さを評価したバリュー株への資金シフトも意識されていました。
しかし、16日発表の11月雇用統計では失業率が4.6%と市場予想を上回り、2021年9月以来の高水準となりました。
市場では「労働需要の減速を示唆する」との見方も出ています。
非農業部門の就業者数は11月に前月比6万4000人増と市場予想を上回ったものの、10月は政府部門の減少が影響して大きく落ち込んでいました。
米連邦政府の一部閉鎖の影響で統計の公表が遅れた経緯もあり、10〜11月のデータについては「慎重に解釈すべきだ」との声が多く聞かれます。
さらに10月の小売売上高は全体では横ばいと予想を下回りましたが、自動車関連を除くと底堅い伸びを示しました。
当面は値動きの激しいレンジ相場が続く
もっとも、市場関係者からは「多くの指標が出た割に、相場の判断材料は限られている」との指摘もあり、米連邦準備理事会(FRB)は今後もデータを見極めながら慎重な政策運営を続けるとの見方が優勢です。
年末にかけての株高期待は残るものの、今回の経済指標は買いを強く後押しする内容とはなりませんでした。
相場をけん引してきたAI関連株も、過剰投資や来年以降の需要・収益性を巡る不透明感が重荷となっています。
市場では「経済とAIを巡る明確な方向性が見えるまで、積極的な買いは控えられやすい」との見方が広がっており、当面は神経質な展開が続き、値動きの激しいレンジ相場となりそうです。