昨年、東芝は、従来のコンピュータの計算能力を大幅に向上する新しい技術を開発したと発表しました。
組み合わせ最適化問題と呼ばれる計算では、世界最速を実現したとしています。
また、理論上、解読不可能な暗号を開発し、サイバー犯罪が高度化し国家機密や企業秘密の漏洩が課題となる中、大きなビジネスチャンスを生んでいます。
今回は、東芝の世界最速の計算機と解読不可能な暗号技術について、簡単にご紹介していきたいと思います。
- 世界最速の計算能力「シミュレーテッド分岐マシン」
- 絶対に解読されない暗号を開発
- 東芝が開発した絶対に解読されない暗号とは?
- 量子暗号とは?
- 量子暗号の市場はおよそ2兆円!
- 東芝の挑戦!量子暗号通信の課題
世界最速の計算能力「シミュレーテッド分岐マシン」
東芝は、昨年、組み合わせ最適化問題と呼ばれる計算では、世界最速を実現したとしています。
東芝は、複数の計算を並列で同時に行うことで、従来のコンピュータの計算能力を大幅に向上させる新しい技術を開発しました。
その名も膨大な選択肢から最適な解を見つける「シミュレーテッド分岐マシン」です。
このシミュレーテッド分岐マシンは、膨大な選択肢の中から最適なものを選ぶ技術であり、最適な答えを導き出す組み合わせ最適化問題の計算では、世界最速を実現しました。
NTTが開発したレーザーを使った計算の10倍の速度で計算し、世界最速を実現したとしています。
この技術を使えば、物流であらゆる経路から最短となる経路を見つけ出すといったことが可能になります。
また、金融市場において数えきれない候補の中から最も収益性の高い取引を瞬時に行うような活用法や、創薬においても無数の組み合わせの中から、新しい分子設計が見つけ出せるようになります。
そのほかにも製造業の最適生産計画、電力会社の電力最適分配など社会の様々な課題を解決することが期待されています。
このように「組み合わせ最適化問題」は、効率的な配送ルートの選択や新薬開発での分子設計の計算など様々な分野での活用が期待されています。
従来のコンピュータの計算では膨大な時間がかかるため、計算には量子コンピュータが必要だとされていました。
取り扱う課題の規模が大きくなればなるのほど、組み合わせのパターンも膨大になります。
そのため、短時間で解を導き出すことはこれまで不可能とされてきました。
その課題を解決するのが、今回東芝が開発したシミュレーテッド分岐アルゴリズムです。
このアルゴリズムは、量子コンピューターよりも速く計算が可能と言われています。
東芝によれば、この計算機は、古典力学における「分岐現象」「断熱過程」「エルゴード過程」の3つを利用した新たなアルゴリズムが高精度に解を導き出す仕組みであり、現在普及しているデジタル計算機を活用して瞬時に解を導き出すことに成功したそうです。
従来と比べ、圧倒的な高速性を実現し、世界最速の計算速度を達成しました。(2019年11月時点)
絶対に解読されない暗号を開発
量子コンピューターは、世界最速のスーパーコンピューターで1万年以上かかる計算をたったの200秒で解いてしまうのです。
もしも量子コンピューターが普及すると、現在一般的に使われている暗号は簡単に解読されてしまうことになると言われています。
そんな課題を解決すべく東芝が開発に成功したのが、「絶対に解読されない暗号」です。
以下で絶対に解読されない暗号とはどういうものなのかご紹介していきます。
東芝が開発した絶対に解読されない暗号とは?
東芝が開発した全体に解読されない暗号とは、量子暗号通信と呼ばれるのものです。
量子コンピューターが実用化されることによって、これまで使用していた暗号化の技術では、情報漏洩を防ぐのが難しくなると考えられます。
そこで、量子コンピューターでも解読不可能な暗号として考えられたのが、この量子暗号という技術です。
世界中でこの技術を実用化するため、開発競争が起こっていました。
その世界競争の中から一歩抜け出したのが、日本の東芝です。
日本以外でも量子暗号の技術は開発されていますが、東芝の技術は特に高く評価されています。
東芝は、現在、量子暗号通信のアメリカの実用化に向けて動いており、これが実用化されれば、日本企業では初めての快挙となります。
量子暗号とは?
量子暗号とはどのようなものなのでしょうか。
Wikipediaでは、量子暗号について以下のように書かれています。
量子暗号(りょうしあんごう、英: Quantum cryptography)とは、いくつかの種類があるものの、量子力学の性質を積極的に活用することで無限の計算能力と物理法則以外に制約を持たない攻撃者から通信を守ることを目的とした技術を指す。
出所)Wikipedia
これだけでは、ちょっとイメージが湧かないと思うので以下簡単にご説明します。
現在インターネットで一般的に使用されている暗号は、現在のコンピューター技術では解くのに時間がかかってしまうような、数学の問題をもとに作られています。
しかし、量子コンピューターの登場で、このような暗号では簡単に解読されてしまう可能性が高まりました。
そこで登場したのが、量子暗号です。
量子暗号は、理論的に「盗聴不可能」とされています。
つまり、解読されないというわけです。
ではなぜ解読されないのでしょうか、その仕組みを簡単にご紹介します。
この暗号は、量子力学の法則を基に考えられたもので、暗号や暗号の解読のカギとなる情報を、光の粒子である、光子にのせて送る仕組みとなっています。
不正な解読があった場合は、光子の状態が変わってしまうため、鍵が使えなくなり、情報の安全が守られる仕組みとのことです。
量子暗号の市場はおよそ2兆円!
量子コンピューター自体、実用化まではまだ時間がかかるとされています。
でも実用化の前に量子暗号通信技術を備えなければ、国家機密や企業秘密が外部に漏洩し、大問題に発展しかねません。
こうした点から、この量子暗号技術はビックビジネスに繋がるのではないかと期待されてます。
そこで、東芝は、機密情報のやりとりが特に多いとされるアメリカに目を付けました。
東芝は、新たなデジタル事業の1つとして、量子暗号の技術を定額制サービスにて提供しようと計画しています。
そして、アメリカでの普及を状況をみながら、世界展開に踏み切る戦略です。
東芝はこれにより、利益率を最高で6割まで高められるとしています。
また、東芝ではこの量子暗号に関係する市場が今後2兆円ほどになると予想しています。
先手を打つことで、東芝の存在感を示す狙いです。
もしも実用化が成功すれば、量子暗号の分野を東芝が制することができるかもしれません。
東芝の挑戦!量子暗号通信の課題
完璧に見える量子暗号ですが、まだまだ課題もあります。
その一つとして、情報の伝達に使う光子がとても弱い光のために情報伝達の距離を伸ばすのが難しいという点です。
現在、東芝では500kmの距離の通信に成功していますが、距離を伸ばすごとに情報伝達の速さが、遅くなってしまうという課題がみえました。
これを受け東芝は、量子の経路に中継点を作ることで、速度を保ちつつ距離も伸ばしていきたいとしています。
東芝では量子暗号の実用化を20年度以内に実現させる計画です。
このような状況から日本政府も、量子コンピューターや量子暗号の実用化に向けて、「量子技術イノベーション戦略」を決め、国が研究開発を支援する方針を打ち出しました。