粗鋼生産量で国内首位、世界第3位を誇る鉄鋼メーカー、日本製鉄。
技術力には定評があり、高級鋼板で他の鉄鋼メーカーを圧倒しています。
そんな日本を代表する鉄鋼メーカー、日本製鉄が先日、4,315億円もの大赤字を計上しました。
この発表がある前から4,400億円の赤字予想となっており、株価は下落を続けていました。
2007年には9,000円以上あった株価は、現在、1,000円を割っています。
比較的安価になった日本製鉄ですが、果たしていまが買いなのでしょうか。
今回は、日本を代表する鉄鋼メーカー、日本製鉄ついてご紹介していきます。
日本製鉄の株価状況
株価(5/8 15:00)
896.6
年初来高値
1,747.5(2020/1/20)
年初来安値
798.1(2020/4/23)
最高値(過去10年)
3,590.0(2013/9/27)
最安値(過去10年)
798.1(2020/4/23)
PER:37.12倍
PBR:2.40倍
配当金(会社予想):10円
配当利回り:1.12%
配当性向(会社予想):赤字
配当権利付き最終日:2020年3月27日、2020年9月28日
自己資本比率:36.3%
利益剰余金:1兆9,646億円
ROE:-15.6%
ROA:-5.7%
EPS:-477.9円
日本製鉄の財務状況
自己資本比率:36.3%
自己資本比率とは、返済不要の自己資本が全体の資本調達の何%あるかを示す数値です。
自己資本とは、株主からの出資金と事業活動から得た利益の蓄積を表しています。
自己資本比率は、自己資本÷総資本(自己資本+他人資本)で算出します。
自己資本比率が小さいほど、他人資本の影響を受けやすい不安定な会社経営を行っていることになり、倒産するリスクが高まります。
一方で自己資本比率が高いほど経営は安定し、倒産しにくい会社となります。
自己資本比率は会社経営の安定性を表す数値であり、高いほどよいのです。
では自己資本比率がどのくらいなら倒産しない会社といえるでしょうか。
一般に自己資本比率が70%以上ならまずつぶれません。
40%以上なら倒産しにくい企業といえます。
日本製鉄の自己資本比率は、36.3%です。
ROE:-15.6%
ROEは、10~20%程度であれば優良企業であると判断されます。
自己資本利益率(ROE:Return on Equity)とは、自己資本(純資産)に対してどれだけの利益が生み出されたのかを示す、財務分析の指標です。
自己資本とは、株主からの出資金と事業活動から得た利益の蓄積を表しています。
ROE(自己資本利益率)は、企業が自己資本をいかに効率的に運用して利益を生み出したかを表す指標です。
株主の立場から見ると、自己資本利益率が高い会社は「自分が投資したお金を使って効率よく稼いでいる会社」であると見ることができます。
日本製鉄は、株主から集めたお金と事業活動から得たお金をどれだけ有効活用しているか示すROEが-15.6%となっています。
収益性は芳しくないですね。
ROA:-5.7%
ROAが5%が超えていると優良企業であると判断されます。
ROA(総資産利益率:Return On Assets)とは、総資産に対してどれだけの利益が生み出されたのかを示す、財務分析の収益性の指標です。
純資産(自己資本)、負債(他人資本)を含めた、すべての資本をいかに効率的に運用できているかを表す情報とも言えます。
一般的に、ROAが5%が超えていると優良企業であると判断されます。
ただし、業種によって基準が変わってくるため、ROAを分析する際は同業種の水準と比較することが大切です。
日本製鉄のROAが-5.7%であり、総資産利益率も振るいません。
EPS:-477.9円
EPS:Earnings Per Share(1株当たり利益)とは、財務分析で企業の成長性を分析するの指標の一つであり、1株に対して当期純利益がいくらあるのかを表す指標です。
「1株利益」「1株あたり当期純利益」と呼ばれることもあります。
EPSとは、成長性を見る指標です。EPSの推移を見るようにしましょう。
順調にEPSが増えていれば、成長性のある企業であると言えます。
EPSは、会社の規模にかかわらず1株あたりの当期利益の大きさを表しているため、値が大きいほど良いとされます。
順調にEPSが増えている企業は、安定的に収益をあげ、しかも成長中の企業なので、投資先として検討しましょう。
以下は日本製鉄のEPSの推移を表したグラフです。
2015年:255.4円
2016年:225.5円
2017年:148.0円
2018年:221.0円
2019年:281.8円
2020年:-477.9円
EPSは、2019年まで概ね横ばいで推移していたしたが、2020年に赤字となりマイナスになりました。
マイナスとなるのは7年ぶりです。
PER:37.12倍
株価収益率(PER:Price Earnings Ratio)とは、財務分析で企業の成長性を分析するときに利用する指標の一つであり、株価が1株ごとの当期純利益の何倍まで買われているかを表すものです。
PER(倍) = 株価 ÷ 1株当たり利益(EPS)
PERが低いほど会社の利益に対して株価が割安であり、高いほど株価は割高だと判断できます。
PERは会社の利益を基準に判断し、PBRは会社の資産を基準に判断されます。
PER15倍以下なら割安と言われています。
現在の日本製鉄のPERは37.12倍で割高状態です。
PBR:2.40倍
PBR:Price Book-Value Ratio(株価純資産倍率)とは、財務分析で企業の成長性を分析するの指標の一つであり、会社の純資産に対して株価が適当な水準であるのかを表す指標です。
PBR(株価純資産倍率)は、1株あたりの純資産に対して、何倍の株価で株が買われているかを表しています。PBRを見れば、会社の資産に対して株価が高いか安いかを判断できます。
PBRの目安は1倍以下です。
一般的な目安として、PBR(株価純資産倍率)が1倍以上なら割高で、1倍を割るようであれば割安であると考えられています。
PBRが1倍ということは、株価とBPS(1株あたり純資産)が等しいということであり、その投資段階で会社が解散した場合、株主には投資額がそのまま戻ってくるということを表しています。
日本製鉄のPBRは、2.40倍となっており割高です。
株価指標の読み方については、以下の記事で解説していますので、是非ご覧ください。
日本製鉄の株価推移
10年チャート
出所)日本製鉄(株)【5401】:リアルタイム株価チャート - Yahoo!ファイナンス
1年チャート
出所)日本製鉄(株)【5401】:リアルタイム株価チャート - Yahoo!ファイナンス
2018年の頭から下落トレンドです。
直近では、赤字転落や新型コロナウィルスの影響で500円以上下落しました。
その後も株価は軟調であり、現在は800円台で推移しています。
この値は、過去10年で最安値です。
日本製鉄の事業内容
売上収益は製鉄部門が大部分を占めています。
日本製鉄の当期利益の推移
2012年:584億円
2013年:-1,245億円
2014年:2,427億円
2015年:2,142億円
2016年:1,454億円
2017年:1,309億円
2018年:1,950億円
2019年:2,511億円
2020年(予想):-4,315億円
当期純利益は、2013年に赤字となってからは黒字転換し横ばいで推移してきました。
しかし、2020年に再び赤字転落となりました。
赤字転落は7年ぶりです。
4,315億円もの大赤字となり、株価も大きく下げ下落トレンドとなっています。
日本製鉄の配当金の推移
日本製鉄の配当金は、2017年からやや増配傾向にありましたが、2020年は赤字となったことから大幅減配となりました。
2013年:10円
2014年:50円
2015年:55円
2016年:45円
2017年:45円
2018年:70円
2019年:80円
2020年:10円
2020年の配当金は、昨年から70円減少し、一株あたり10円の予想しています。
中間配当10円、期末配当は見送られます。
日本製鉄の次回の配当権利付き最終日は、中間配当の2020年9月28日です。
日本製鉄の配当性向の推移
配当性向は、1株当たりの利益のうちどれだけの割合を配当金に当てたかを示す指標です。
配当性向は、以下の数式で求められます。
当期純利益÷配当金総額
EPS(1株当たり純利益)÷1株当たり配当金
2013年:17.4%
2014年:18.7%
2015年:23.4%
2016年:28.4%
2017年:30.4%
2018年:31.7%
2019年:28.4%
2020年:赤字
日本製鉄の配当性向は、ここ数年、やや上昇傾向にありました。ただし概ね40%以下で推移しており、配当過多といった状況にはなっていません。
日本製鉄の今後は茨の道
2020年3月期の連結売上収益は前年比4.2%減の5兆9215億円、本業の儲けを示す事業損益は2844億円の赤字(前期は3369億円の黒字)、最終損益は4315億円の赤字(同2511億円の黒字)となりました。
出所)決算情報 | IRライブラリ | 株主・投資家情報 | 日本製鉄
日本製鉄は2020年5月8日、現時点で合理的な算定・予想を行うことができないとして、2021年3月期(国際会計基準、IFRS)の決算見通しの開示を見送りました。
新型コロナウイルスの感染拡大により自動車をはじめ急激な需要減に見舞われており、4―6月期の粗鋼生産は700万トン(前年同期は1027万トン)・稼働率は60%程度に低下するとのことです。
橋本英二社長は会見で「上期の大幅な(単独営業)赤字は避けられない」との見通しを示した。
新型コロナは7―9月期も影響継続を想定、回復時期は不透明としています。
橋本社長は「終息後も他の業界に比べて回復は緩やか」との見通しを示しており、やや弱気な姿勢です。
石油価格の大幅下落や鉄の需要増が見込めるはずだった新興国の停滞も影響しています。
また、中国のいち早い回復により、中国鉄鋼業界の存在感が増すことにも懸念されます。
経済産業省が発表した7―9月期の国内粗鋼生産量見通しは1936万トンで前年同期比26%減を見込んでいます。
橋本社長は、リーマンショック時も9000万トンを維持した全国粗鋼生産は、上期末までにコロナが終息したとしても8000万トンを下回るとの見通しを示しており、リーマンショックを超える影響が出るとのことです。
北海製鉄(北海道室蘭市)第2高炉の改修のための操業休止を2020年7月上旬以降に前倒し実施すると発表。
さらには、九州製鉄所八幡地区小倉第2高炉(福岡県北九州市)についても7月上旬以降に一時休止するとしています。
すでに、東日本製鉄所君津地区第2高炉(千葉県君津市)についても、5月中旬以降に一時休止すると発表しています。
構造改革として、瀬戸内製鉄所呉地区第2高炉(広島県呉市)を2月15日から休止させ、2023年9月末までに閉鎖することを決めました。
さらに、新型コロナの影響により、東日本製鉄所鹿島地区第1高炉(茨城県鹿嶋市)を4月15日から、関西製鉄所和歌山地区第1高炉(和歌山市)も4月25日から一時休止しており、今年に入って、一時休止の対象となった高炉は計6基にのぼります。
橋本社長は「今後の市場動向によっては追加の構造対策として休止せざるを得ない高炉も出てくる」との見方を示しています。
休止となっている6基もの高炉は、当然ですが生産をしていないことから、売上、利益ともに減少していくことが考えられます。
高炉休止の主な要因のひとつに中国のっ鉄鋼メーカーの台頭があります。
中国は、20年前から製鉄能力を凄まじいスピードで向上させ、鉄の生産量に急激に伸ばしてきています。
世界の鉄鋼メーカーの粗鋼生産量ランキング(2019年)
出所)4月に誕生、世界鉄鋼3位「日本製鉄」の実力度 | 素材・機械・重電 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
中国の粗鋼生産量は1995年頃の時点で日本を抜き、現在では日本の約10倍、世界の鉄の半分を生産しています。
また、世界の鉄鋼メーカーの粗鋼生産量ランキングではトップ10社中5社が中国企業です。
世界中で生産が増えた場合、その後は商品の価格が下がるのが定説です。
中国の生産拡大によって、世界の鉄鋼の価格が大きく下落しました。さらに鉄の原材料の価格も上がっています。
出所)決算情報 | IRライブラリ | 株主・投資家情報 | 日本製鉄
価格が下がり原材料が高騰すれば、売っても利益が取れなくなります。
また、中国に価格競争で負けてしまい、日本製鉄の鉄鋼が売れなくなり、販売量も減少し続けてきました。
2019年の単独の粗鋼生産は3954万トンで、前年の4100万トンから低下。鋼材平均価格も1トンあたり8万7300円で前年の8万9900円から下落しました。
鉄鋼の下落、原材料の高騰及び販売量の減少という構造上の問題で日本製鉄は、儲からない企業となっていました。
出所)決算情報 | IRライブラリ | 株主・投資家情報 | 日本製鉄
日本製鉄は、リーマンショック後、本業の製鉄事業で全く利益を上げられていません。
注目すべきは、きっかけがリーマンショックという点です。
つまり、リーマンショックを機に鉄鋼業界は、大きく産業構造が変化したと言えるわけです。
そこで、日本製鉄は、鉄の需要減や鉄鋼価格の減少に向けた対策として、老朽化した高炉や生産効率の悪い高炉を閉鎖を進める構えです。
つまり、稼げない現状の構造を改革する目的で、国内の高炉の閉鎖やリストラを検討しているわけです。
また、構造改革として、高付加価値品への集中と海外進出の加速も考えられます。
中国の鉄鋼は、安価で大量の鉄鋼を生産しています。そのため、逆に日本製鉄は高付加価値の鉄鋼に注力することで差別化し利益を出していく戦略があります。
日本だけでは需要が見込めないため海外進出の加速が必須です。
製鉄業界に再編の波が来ています。
リストラや高炉の閉鎖等によるコスト削減と高付加価値品への集中、海外進出の加速がキーになってきます。
しかし、これらは日本製鉄とって茨の道です。
リストラが強行された場合、日本製鉄の労働組合は黙ってはいません。
日本製鉄は歴史ある会社であることから労働組合も強く、人員削減には一筋縄ではいかないでしょう。
また、世界経済が落ち込むと、世界中で安価な鉄鋼に対するニーズが高まります。
高付加価値な鉄は、高価であることから、需要のさらなる減少のリスクもあるわけです。
まとめ
日本製鉄の株価は、世界的な鉄鋼価格の減少とと需要減より業績が厳しい状態が継続することが懸念されることから、今後も下落することご予想されます。
価格自体は800円台と安いですが、安易に手を出すのは危険です。
これから数年で構造改革を進めることにより、収益力の強化を図ることが急務となっています。
また、海外進出が加速し世界シェアを拡大することができれば、利益も増加し株価も上昇してくるかもしれません。
それまで様子が必要です。